2022/11/4金曜サロンスペシャル 〜不登校児童・生徒の学習サポートについて〜

 文科省の調査結果によると、令和3年度における日本全国の不登校児童・生徒数は約25万人と言われいて、9年連続で増加を続けています。不登校のカテゴリーにはカウントされていない長期欠席児童・生徒数など「不登校傾向」を含めると中学生だけでもその数は33万人になるそうです。コロナ禍の今、ますます不登校児童・生徒数は増加する可能性が高いと言われています。
 話し手の中河西さんは、大学在学中に塾の講師を経験し、卒業後に大手の塾を中心とした教育関係の企業で働いてきましたが、ご自身が仕事をしていく過程で「世の中にはこれだけ多くの学校に行けない子どもたちがいる」という非常な現実を目にすることになります。それと同時にただ単に学業の成績を上げるためだけの今の学習塾のあり方に疑問を持ち始め、これからは学校に行けない子どもたちの受け皿が必要になってくることを確信することになります。
 そして、安定的な収入を得られていた大手教育関係企業を退職し、自ら民間の学習サービスである「合同会社まなびナビ」を設立しました。
  今回の金曜サロンスペシャルでは、不登校や引きこもりの子どもに対するアプローチの仕方、そしてその子たちをいかに学習につなげていくかというとても興味深いテーマについてわかりやすく解説していただきました。

1 中河西さんの経歴・プロフィール

 まず、お名前を拝見して「なこうさい」と読める人はなかなかいないのではないでしょうか。日本全国の中でも珍しい名字で、全国でもその人数はわずか30人程だそうです。名字は福島県東半と宮城県南部が発祥といわれています。
 中河西さんは1987年に稲城市大丸で生まれ育ちました。ご両親とお姉さんの4人家族で、コマクサ幼稚園、稲城第六小学校、稲城第一中学校と地元の幼稚園、小・中学校に在学していました。小学校からサッカー少年で稲城第一中学校でもサッカー部に所属し、毎日がサッカー漬けの日々でした。その後都立狛江高校に進学し、卒業後に入学した大学を退学して受験をし直し、早稲田大学商学部に進学します。卒業後は企業変革コンサルティング・クラウドサービスなどを主とした業務を行っている「リンクアンドモチベーション」という会社の学習塾部門にインターンとして就職します。その後、教育・学習塾経営関連の業界に身を置き、河合塾などの大手学習塾関連の仕事を経験した後、32歳で独立し、「まなびナビ合同会社」を設立、創業します。企業理念は「学びに対する前向きな姿勢が人生をつくる」というものです。
 中河西さんは現在35歳、同年齢の奥様と5歳と0歳のお子様の4人家族で向陽台にお住まいになっています。

2 今の教育における課題について

 中河西さんは今の学習塾については「受からせ屋」であって、それ以上のケアをする場所ではないと言います。今の教育現場における課題のひとつとして「逆ピラミッド構造」というものを挙げています。家庭の所得が低い家の子どもは個別教育の必要性は高いが、実際には個別指導を受けるだけの家計に余裕がないために教育を受けることができず、その結果、学力格差はますます広がってしまい、その結果が不登校の増加にもつながっていると言われています。また、10年前であれば不登校はいじめが大きな要因を占めていましたが、今の時代は、家庭や子どもの考え方や趣向の多様性によるところも不登校につながる大きな要因であると言われています。家庭のあり方が千差万別となり、両親の離婚、集団でいるのが嫌だという気持ちや集団で学ぶことに意味があるのかという子どもたちの意識の変化なども不登校の増加につながっているそうです。このように日本の教育格差や教育制度自体が構造的に変わらない限り不登校の数は減らないと中河西さんは力説します。そして、今のこのような時代であればどんな子どもでも不登校になる可能性があると言います。

3 不登校児童・生徒の支援について

 不登校児童・生徒の支援には「公的支援」と「民間サポート」の2種類の支援があります。稲城市の場合、ふれんど平尾にある適応指導教室「梨の実ルーム」がそれにあたります。中河西さんは稲城市も含めて、課題が深刻化する一方で、不登校の児童生徒に対する公的な支援は不十分」と言っています。学びの保障を家庭だけに求めるのではなく、公的にも不登校特例校を設置したり、教育支援センターを設置し充実させたりすることが必要であるとのことです。例えば不登校になっても、実際にはフリースクールに通うにしても民間のフリースクールは入会金や授業料が高額なため、家庭の経済状況によって、受けられる学びの機会格差にもつながっています。そのため、公的な支援をもっと充実させていかないと学習格差が広がってしまう懸念があるそうです。

4 中河西さんが考える不登校支援の考え方

 中河西さんの考える不登校児童・生徒支援は以下の通りです。

  1. 学校に戻るかどうかは本人の意思を尊重する。学校を学びの場所に限定せずに本人が戻りたい、戻っても大丈夫となるまでは無理強いはしない。
  2. 復学はタイミングが大事である。
  3. 外部サポート支援としてできることは「復学しやすい環境」をつくること。それには学習サポートも大切な要因となってくる。なぜなら、復学して勉強についていけなければ再度不登校になってしまう確率も高くなってくるからである。

5 中河西さんが実施している支援の流れ

  1. 専門支援(医療・福祉)の必要性判断
  2. 特別支援教育の必要性判断
  3. 「支援の見立て」の作成
  4. 「二次障害」(不登校の期間に学習が遅れてしまい、結果として学習の遅れが原因して再度の不登校になること)を防ぐ学習サポート
  5. 定期的なコミュニケーションをとること等により本人のタイミングを待つ

 中河西さんによると、二次障害にならないようにするためには、「絞り込み学習」と1週間の学習時間を「ゼロ」にしないことが大切だそうです。
 本人に達成感を与えるために、問題はその子が必ず答えられるものにし、それを繰り返すことによって自信を持たせることが大切だそうです。
 学習において一人ひとりの人間にとって「最適な学び」をデザインする技術をスタディデザインと言いますが、まなびナビではその技術を取り入れています。自宅学習サポートによる学習習慣(がんばろうと思う心)→オンライン教室

 学習サポートによる成功体験(できた)→自己肯定感(できる)→好奇心(もっとやる)の循環ができれば、その子は学校に行ってみたいと思うようになるというものです。
 中河西さんは自分の子どもが不登校になったとしても心配はありませんと言います。誰にでも不登校になる要素があり、多くの場合、今の不登校は日本の教育制度自体に起因している内容が多く、それをサポートするシステムさえ機能していれば、必ず復学できるようになるとのことです。

6 まとめ

 中河西さんは32歳という年齢で独立・創業し、現在35歳で今がまさに脂が乗り切った年齢かもしれません。話を聴いていてもこれから何かをやってやろうという勢いのようなものを強く感じました。
 また、一方では、中河西さんが地域振興プラザで不登校の子どもたちと接している様子は、心優しい眼差しを持ったお兄さんでした。
 不登校というと暗い表情を持った子どもたちを想像していましたが、中河西さんが接している子どもたちの表情がとても明るいのには驚きました。これは周りの雰囲気を和ませる技術的なこととかではなく、中河西さんが生来持っている子どもを安心させる雰囲気なのではないかと感じました。
 今回の金曜サロンスペシャルは市民活動に営利的な要素というものを取り入れていくことが一つの争点になりましたが、ただ単に市民活動が営利につながってはいけないというのではなく、一番大切なことは活動自体が社会貢献になっているか。そして、利益の大半が活動のための運営資金に充てられ、ご本人とご家族が最低限の生活していくための収入に充てられるとしたら、そこにある目的は営利などではなく、その活動は純然たる社会貢献活動であると言えるのではないかと思いました。「まなびナビ」の発足経緯を見ても、高額な月謝を徴収する大手塾のあり方に疑問を呈し、学校に行けない不登校児童・生徒をフォローするために始めたものであり、テキスト代程度の低額の月謝で運営をして、所得の低いご家庭の負担にならない金額に設定しています。この活動によって不登校から脱して学校に行ける子が一人でも輩出するのであれば、社会的に見ても尊い活動であることは間違いないと思います。
 「協働は目的ではなくて手段である」ことに顧みて、今後も中河西さんの活動に注目していきたいと思います。
 また、中河西さんは本年、府中市ソーシャルビジネスコンテスト、みたかビジネスプランコンテストで相次いで最優秀賞を獲得しました。これからもこの若干35歳の若武者の活躍にいろいろな意味で期待したいと思います。                             (Y.OGAWA)