第162回 金曜サロンスペシャル 『これからの東京ヴェルディと稲城市について』

 

 現在、快進撃を続け、総合順位で2位(4月14日現在)につけている東京ヴェルディには、J1昇格という大きな期待がふくらみます。
 ご存知の通り、ヴェルディは、かつてカズやラモス、柱谷などの有名選手を擁し、J1では常に優勝争いを繰り広げてきた名門チームです。
 その後、親会社が代わったことなどによってチームを取り巻く環境も大きく変わりました。現在は「東京ヴェルディ」に名称を変更し、稲城市をホームタウンとして地域密着の総合型スポーツクラブを目指しています。
 これからの東京ヴェルディが具体的にどんなクラブ作りを目指していくのか。地元稲城市との関係や青少年たちにサッカーの魅力をどのように伝えていくのか。そして何より、名門復活のためにチームにとって必要なことは何かなど、「今、知りたいヴェルディ」についてホームタウン事業部の中島さんに語っていただきました。
 

【中島健吾さんの経歴】
 中島さんは1996年生まれの25歳です。日野市で育ち、小学生の頃は空手をやっていました。また、サッカー少年でもあり、時間があればサッカーボールを蹴っていました。
 大学卒業後に一般企業に就職しましたが、就職2年目の年に東京ヴェルディの求人があることを知り、2021年に東京ヴェルディに転職しました。現在はホームタウン事業部に所属し、主にヴェルディのPRとクラブと地域をつなぐための営業活動等を行っています。

【東京ヴェルディの変遷】
 ヴェルディは、1969年に「読売サッカークラブ」というチーム名でスタートし、リーグ戦優勝回数は7回、天皇杯優勝回数5回、カップ戦優勝回数6回と多くのタイトルを数える名門クラブで、先駆者としてサッカー界を牽引してきました。ヴェルディが輩出してきたJリーガーは100名以上。この人数はJリーグの中でも突出しており、人を育てることに長けていて日本サッカーの中心におり、サッカー界のパイオニアとしてその存在感を放ってきました。
 しかし、親会社が急遽スポンサーから降りることになり、チーム作りを含め様々な面で親会社に頼ってきたツケが回ってきてしまいました。
 親会社の撤退による経営危機なども重なり、他チームへ移籍した主力選手も多く、チーム編成や戦力も一からやり直しになるとともに、その後の成績も下降線をたどることになり、2005年には初めてJ1陥落という憂き目に合うことになり、一度はJ1に昇格したものの、1年でJ2降格。その後現在に至るまで14年もの長い間、J2に低迷しています。

【総合型スポーツクラブへの転換】
 今、ヴェルディが目指しているクラブの将来像は、総合型スポーツクラブです。それはどのようなものかと言うと、サッカーだけでなくいろいろなジャンルのスポーツを多角的に取り入れていくというものです。この総合型スポーツクラブは、既に欧米では一般的なスタイルとして定着しており、名門サッカーチームなどでも総合型スポーツクラブを併設しているチームも多く見受けられます。
  ヴェルディでは、今後もエンタメとしてのいろいろなコンテンツを増やしていき、様々なスポーツを通して多くの自治体で「東京ヴェルディ」を見る機会を増やすとともに、人材育成をしていきたいとのことでした。

【BE HAPPY,TOGETHER】
 ヴェルディはホームタウンビジョンとして、地域密着型の地域社会と一体となったクラブづくりを目指しています。その一環として、サッカーをはじめとした様々な取り組みを行い、ホームタウンから愛されるクラブづくりを目指しています。
  ホームタウンの市民がもっとより良い生活ができるように、地域の困りごとなどにもアンテナを張り巡らし、それらの問題解決のために対応していきたいとのことです。また、『BE HAPPY, TOGETHER』(一緒に幸せになろう)をスローガンに、ヴェルディだけが得をするのではなく、また、ホ ームタウンの市民だけが得をするのでもなく、ヴェルディと共にみんなが幸せになるような活動を地域の人たちと作り上げていきたいとのことでした。
 現在、ホームタウンとして協定を締結しているのは、稲城市、多摩市、日野市、立川市の4市と北区、板橋区、足立区の3区ですが、今後はこれらの地区にとらわれずに子育て・教育・生活・防犯・産業・農業・観光など幅広い分野で多くのテーマをかけ合わせた活動を展開していきたいそうです。

【グリーンパートナー2022】
 ヴェルディでは、企業、法人、団体、個人を問わず少額スポンサー制度を始めました。これは最低金額1万円からヴェルディのスポンサーになれる制度で、この少額スポンサー制度を通して街を緑に染めていくための取り組みである「グリーンパートナー」につなげていくことを目的としています。

【稲城市とのパートナーシップの実績】
 ヴェルディの稲城市における実績としては、2019年9月から稲城駅の列車接近メロディーがヴェルディのクラブソングになりました。また、駅の街頭フラッグがヴェルディの新ロゴフラッグとなりました。
 福祉関係では、2019年10月より稲城市総合体育館指定管理者であるグリーンウェルネス財団から業務委託を受けて、東京ヴェルディが障がい者スポーツ体験教室を実施しています。
 2020年11月には稲城市内の保育施設38か所、市立図書館6か所にリヴェルン絵本を寄付しました。
 一方、新型コロナウィルスの影響によって減収を余儀なくされた稲城市立病院を支援することを目的にチャリティーオークションを実施し、723,415円を寄付しました。
  教育関係では、小学生の登下校時の交通安全への取り組みとして、子どもたちの交通安全意識の向上のためにヴェルディから市内小学生に反射板付きのランドセルカバーを配布しました。
 また、街のデザインとして、稲城駅前の郵便ポストを緑色にラッピングし、側面にヴェルディ君、リヴェルン、なしのすけのデザインをしました。
 以上のようにヴェルディは稲城市に様々な形でパートナーシップとしての取り組みを行ってきています。

【今後の稲城市との関係―将来的な展望として】
 今後、ヴェルディとして取り組んでいきたいこととしては、まず、いろいろな団体を巻き込んで活動をしていきたいそうです。その第一弾として稲城市の公園にヴェルディのコンテンツを使用した遊具を設置し、子どもたちが伸び伸びとした環境で遊べる公園づくりに寄与していきたいとのことです。
 また、稲城市の全小学校6年生を対象に、1年に1度味の素スタジアムにヴェルディの試合に招待して、小学生にヴェルディと稲城市の繋がりの強さを肌で感じてほしいとのことです。併せて、選手たちが学校訪問をして、ヴェルディがこれからの子どもたちにとって少しでも近い存在として、ヴェルディに視線を向けてもらうための秘策を考えているそうです。

【まとめ】
 中島さんのヴェルディでのお仕事は、広報や渉外といったチームを下支えする業務です。25歳という若さで、多くの自治体や企業との調整をしていくのは大変だと思いますが、逆に中島さんのその若さや爽やかさがヴェルディのイメージにもよく合っていると感じました。
 ヴェルディの今年のメンバーは昨年とほぼ同じであるのに、4月14日現在連勝を続けています。中島さんのお話では今年の選手間の雰囲気は明らかに昨年と違い、選手たちは勝ってJ1に行くことを意識し、真剣に考えているそうです。
 好調の大きな要因として、他のクラブと比べて著名な選手をとったわけではないのですが、昨年よりも一丸となってまとまっていることがまず一番の大きな要因として挙げられるそうです。昨年は世間的にも良くない記事が出てしまい、ヴェルディの印象が悪くなりましたが、今年は選手一人ひとりがチームを良くしていこうと考え、一つになったところでリーグ戦を迎えることになりました。このタイミングが良かったそうです。そしてこれを継続して進めていけば必ずJ1の道は開けると中島さんは断言しています。

 地元密着型クラブとして中島さんたちが最も大事にしていることは、地域の皆さんに応援してほしい、もっと多くの人に試合を見てほしいという気持ちで選手たちは試合をしているということです。
 ホームタウンのスローガンである『BE HAPPY, TOGETHER』はヴェルディが常日頃から心がけていることに通じていると中島さんは言います。つまり、ヴェルディと稲城市がWIN WINの関係でいられるよう、ヴェルディだけがいい思いをするのではなく、またヴェルディだけが得をするというような関係でもなく、そのHAPPYな気持ちを稲城市の地域の皆さんにも還元して、みんなでHAPPYになれるような関係性を常に心がけているそうです。
 稲城市では、サッカー以外にトライアスロン、フットサル、軟式野球の競技がありますが、ユニフォームのカラーが緑色なのですぐヴェルディだと分かります。
 ヴェルディは、サッカークラブのイメージが強いですが、総合型スポーツクラブとして手掛けている競技数は15を数えます。ヴェルディでは、これらの競技をいろいろなホームタウンの場所でスポーツ教室として展開して、ひとつのスポーツだけでなく、いろいろな競技をすることにより、身体や頭の使い方などマルチに活躍できる人材を輩出していきたいと中島さんはおっしゃっています。
 そして、ヴェルディが稲城市に対して最も期待することは、今後も今まで以上の協力関係を築いていきたいということです。そのためには、一人でも多くの市民がまずヴェルディの試合を観に来てほしいそうです。
 稲城市でサッカーをしている選手に伝えたいことは、芝生でのびのびプレーできる環境が整っている練習場や試合を観に来てもらって、選手たちに憧れを抱いてほしいと中島さんは語ってくださいました。
 日本全国を見回してもJリーグクラブがあるまちは数多くあるわけではありません。だからこそ、稲城市の子どもたちには、ヴェルディの試合を観ながら育ってほしい、そして大人になったその子どもたちが今度は次の世代の子どもたちにも自分のまちの誇りあるチームとしてヴェルディを親子で応援していってほしい、そんな中島さんの夢と強い思いが伝わってきました。
 今季ヴェルディがJ1に上がれるかどうかはわかりませんが、J1という短期的な夢ではなく、将来、稲城市民の老若男女がこぞってヴェルディの応援に駆け付け、ヴェルディファンで満員になったスタジアムで選手たちがプレーする姿、そんな日がいつか来ることを中島さんは遠くない将来のこととして見据えているように感じました。
 今節のこれからのカードはとても応援のしがいのある試合ばかりです。スタジアムでの試合を最近観る機会があまりありませんでしたが、中島さんのお話をお聞きして、ヴェルディを我がまちの誇りあるチームとして応援に行きたいと思いました。(Y.OGAWA)