2022/2/4金曜サロンスペシャル 〜ゆうこ博士のわくわく宇宙と生物のはなし~

 

 今回の金曜サロンスペシャルは、コロナウィルスの感染拡大を受けて、定員を20名に限定するなど、感染防止策を講じた上で行いました。  
  話し手の網蔵優子博士は、小学生の時に星空を見上げて「この宇宙に地球以外の生命体はいるのかな?」と思い、それ以来、空を見上げる度に、果てしない宇宙の魅力に魅せられて、「将来は宇宙の研究者になろう!」と決意しました。
 中学、高校共に京都府内屈指の進学校に入学しましたが、ずっとその夢と目標に向かって突き進み、ついには宇宙航空研究開発機構(JAXA)に勤務し、国際宇宙ステーションで実験を行う研究者になりました。
 現在は千葉工業大学惑星探査研究センター非常勤研究員として、JAXAと一緒に、上空の微生物を探す実験をしています。
 また、研究者として宇宙の研究を続ける一方、「科学や宇宙の面白さを多くの人にわかりやすく伝えたい」との思いから、子どもたちへの教育活動を行ってきました。特に2年間のアメリカ在住時に立ち上げた「ゆうこ博士のわくわく科学教室」は2021年5月に稲城市に移り住んでからも継続して実施しており、稲城長沼駅前のくらすクラスを中心に「ゆうこ博士のわくわく科学教室」を主催し、多くの市民から親しまれ好評を博しています。
 金曜サロンスペシャルで伝えたいことは「みんな自分のやりたいこと、好きなことをやってみよう!」ということ、そして、ご自身が今まで経験してきた「宇宙」の話をより多くの人に知ってほしいということでした。
 今回は、未知の世界である宇宙の魅力を網蔵博士ご自身のご経験を含めてわかりやすく語っていただきました。  

【ゆうこ博士とは〜自己紹介】
 まず冒頭に、網蔵ゆうこ博士の自己紹介から始まりました。
 網蔵ゆうこ博士は1984年に3人兄弟の末っ子として岡山県に生まれ、京都府で育ちました。3人ともに気が強く、その中でも特にゆうこ博士は小さい時から「我が強く、目立ちたがりの性格」だったそうです。そして決めたことは何でも最後までやり抜く性格で、やりたいと思ったらすぐにそれを行動に移すというのが、ゆうこ博士のモットーでした。そしてそのような行動の背景には、人の役に立ちたいという気持ちをいつも持ち合わせている子どもでした。高校時代にバレー部のマネージャーを買って出たのも「人の役に立ちたい。人を支えることをしたい。」という気持ちの現れでした。現在、「ゆうこ博士のわくわく科学教室」代表を務める傍ら、千葉工業大学惑星探査研究センター非常勤研究員を務めており、宇宙における微生物の研究を10年以上続けていらっしゃいます。現在の趣味はおりがみと神社めぐりだそうです。 

アメリカでの科学教室の様子

【ゆうこ博士の学歴・職歴】
 ゆうこ博士は京都府屈指の進学校、京都教育大学付属京都高校に進学し、その後、富山大学理学部生物学科に進学、卒業後、東京薬科大学生命科学研究科に進学します。
 2013年には生命科学博士号取得、そして2014年から2016年の2年間はJAXA相模原キャンパスに勤務し、2016年から2018年には、東京薬科大学生命科学部の研究室で助教として勤務しました。
 ご主人の留学に伴い、勤務先であるアメリカコネチカット州に帯同し、現地にて「ゆうこ先生のわくわく科学教室」を初めて開催しました。
 2年後に日本に帰国し、稲城市東長沼に住居を構え、「ゆうこ博士のわくわく科学教室」をくらすクラスを中心に開催しています。

【ゆうこ博士が研究に興味を持つようになったきっかけ】
 小学校5年生の時、京都の冬空を見上げて、「地球にしか生物はおらんかなー。いや、絶対どこかにおるやろ」と思い、その時以来、空を見上げては宇宙の魅力に惹かれ、それがきっかけとなって宇宙の研究者への道を突き進むことになります。
 それ以外としては、学校の図書館で手塚治虫の「火の鳥、未来編」を読んで大きな影響を受けました。
 そして、高校三年生の夏、ゆうこ博士の進路を左右する大きな出来事がありました。
 三鷹天文台で「君が天文学者になる4日間」というイベントがあり、高校3年生で受験の真っただ中でしたが、ゆうこ博士は参加し、最終日に「地球にぶつかる隕石の軌道計算」という発表をしました。
 4日間という短いイベントでしたが、そこで知り合った多くの人とのディスカッションを通してゼロから物事を考えることの楽しさを知り、そのことがゆうこ博士の人生を変えた大きな出来事だったと振り返っています。

君が天文学者になる4日間

【宇宙で生命探しとは(アストロバイオロジー)】
 さて、地球以外に生物はいるのでしょうか?
 現状では、地球以外の生物は見つかっていません。しかし、生物が「いない」ということも科学では証明できません。よって、研究者としてはいるのか、いないのか何とも言えないというのが結論になるそうです。
 アストロバイオロジーとは、「この宇宙空間に地球以外にも生物がいるかどうか、われわれはどこからきて、どこにいくか」を科学的に検証していく研究であり、今も研究者が宇宙には微生物の痕跡があるのではないかと探し続けています。アストロバイオロジーとはこの領域の学問のことを言います。
 そもそも生き物とは以下の要素で成り立っています。それはすなわち「我々はどこからきてどこにいくのか」という研究につながっています。
 ①細胞を持っている。(膜に囲まれている)
 ②物質やエネルギーを生み出す。循環ができる。(代謝)
 ③自分で複製する。(世代交代できる) 
 ④刺激に対して反応できる。 
 これらの要素を持った生物は今のところ地球以外の惑星では見つかってはいません。したがってその定義については今のところ「地球の生命」としては正しいと言えるそうです。
 

 この分野の研究として、まず生物が存在する可能性を示す指標が液体の水があるかどうかです。
 地球には水があって、それが生物の存在につながっています。生命の起源は一つの生物から分岐しています。
 そして、宇宙という過酷な環境の中で生き抜くことのできる極限環境微生物(深海、高温、砂漠などで生息できる微生物)を実験材料にして、これらの生物が宇宙で生きながらえることができるかどうかの実験などを行っています。
 このように、まずは地球を良く知ることから宇宙を知ることになるので、地球上にいる生物を知ることも大変重要なことになるそうです。
 このアストロバイオロジーの研究はアメリカのNASA(アメリカ航空宇宙局)が世界をリードしています。

準備した宇宙サンプル

【たんぽぽプロジェクト】
 2008年から2019年にかけて、ゆうこ博士は、宇宙で生き物が生きていけるかどうかを調べる「たんぽぽプロジェクト」に参加し、様々な実験を行いました。
 生き物にとって宇宙の環境はとても過酷です。まず、太陽が当たる場所では高温、当たらない場所では低温になります。かつ真空であり乾燥していて、紫外線が強いことなど、悪条件ばかりで普通の生物では到底生きていくことはできません。
 そこで宇宙で最強とされている放射線耐性菌ディノコッカス菌を2cmのアルミ板に開いた穴に入れて詰め込み、ロケットで国際宇宙ステーションに打ち上げ、宇宙実験にこの菌が耐えられるかどうかを解析しました。

その結果、サンプルが帰還し、培養して調べたところ、菌は無事に生きており、宇宙空間でも生きていける微生物がいることが実証されました。
 この実験を通してゆうこ先生が感じた研究者による「宇宙実験」とは以下の通りです。
①研究者として毎日やることはとにかく地味な作業であり、やることはとても多い。
②とにかく時間がかかる。研究者が準備をしてから結果が出るまで最低10年はかかった。
③宇宙実験は宇宙で行うことが本番ではなく、地上でいかに失敗する可能性を潰し切れるか、準備できるかが本番である。
 また、国内外問わず、たくさんの方々が関わって宇宙実験が成立していることを学びました。
 以上のように気が遠くなるような実験を幾多経験し、ゆうこ博士は科学や実験を通して子どもも大人も自分が持っているわくわくや疑問に気づくきっかけになるような活動を目指しています。

【まとめ】
 昨年の暮れに稲城長沼駅前のくらすクラスにて、ゆうこ博士の科学教室を含めた何団体かが「想像力が爆発する学び場」というジョイントイベントを開催するというお知らせを受け取り、取材をさせていただきました。
 くらすクラスの一角に屋台のお店を作り、それぞれのお店には子ども店長がいて、お店を仕切っていました。小さなイベントではありましたが、そこでお店をやっている子どもたちの何とも生き生きとした顔がとても印象的でした。きっと普段、自分たちに何か責任のある仕事を任せてもらえるという機会が少ない中で、出店の企画からお店の全権をすべて任されることが、この子たちのやりがいにつながっているのだなと感じました。
 そして、このイベントを総合的に企画したのは誰なのかとても興味が湧いたので、近くにいた保護者の方にこのイベントの発案者が誰なのかを尋ねてみました。するとゆうこ博士を指さして「あの方が全部企画しました」と教えてくださいました。ゆうこ博士に聞くと、ここに集まった団体へはすべてゆうこ博士から参加を呼びかけ、出店までこぎつけたそうです。そう考えるとゆうこ博士は単なる学者なんとか(失礼しました)などではなく、科学分野の博士であると同時に、このようなイベントなどを開催するのにあたっても、卓越した企画力、調整力、指導力を持ち合わせている方であることがよくわかりました。
 また、子どもたちが今、何に飢え乾いていて、何をすれば自己要求を満たせるのか、大袈裟に聞こえてしまうかもしれませんが、そのような子どもたちの必要についても敏感に感じ取れる方なのだということもわかりました。
 それは、ゆうこ博士ご自身が、アメリカでボランティアに携わったり、宇宙少年団MM分団にも所属し、ボランティアリーダーなどをご経験をされていたことが、その後、ご自身が子どもたちに寄り添う上での基礎になっているのかもしれません。

想像力が爆発する学び場 2021年12月27日開催 くらすクラス(東長沼)
子ども店長の様子
子どもたちが夢中になった シャボン玉オヤジ(川崎を中心に活動) 
子ども達が自分で描くプラネタリウム作り こどもアトリエ ほーほーきっず    (国立を中心に活動)

  

ロケットを打ち上げている様子

 このイベントで開催された「ゆうこ博士のわくわく科学教室」でのエピソードをご紹介します。
 その日は「ロケットを打ち上げよう」と題し、お菓子のラムネのボトルをロケットに見立て、クエン酸と重曹を混ぜてしばらく放置すると化学反応によりロケットが打ち上がるという実験でした。子どもたちは競うように自分のロケットにそれぞれの化学物質を混ぜてロケットを打ち上げ始めました。しかし、そこにいた一人の男の子が何度チャレンジしても不発に終わってしまい、いくら繰り返しても結果が出ないことに地べたに倒れこんでふてくされてしまいました。ゆうこ博士は忙しいのにその子につきっきりになり、「あきらめたらあかん、もう一度やってみよう」と何度断られても本人を諭し、そして「先生もやるからいっしょにやろう」という言葉にやっとのことで気を取り直して実験に参加しました。結果はロケットが倒れて横に飛んでしまったのですが、飛んだという事実だけでその子も満足したようでした。

 科学研究者というのは何年もかけてほんの1ミリ、2ミリの結果が求められる世界なのだそうです。たんぽぽ計画などの研究にもみられるように、その実現までには何年もかかるなど、研究者には我慢がつきものということです。
 今回、このような子どものわがままにつき合うことなど、研究者が日常的に抱えている我慢や辛抱に比べたら蚊に刺された程度というのは少し言い過ぎですが、ゆうこ博士は、教育には時間がかかるものであり、チャレンジする環境を大人が作り、時間をかけて子どもの成長を手を出さずに見守ることが重要だと考えています。

 最後にゆうこ博士が科学教室を通して伝えたいことをご紹介します。
 一つ目は自分の疑問や課題を考え、形にし、それを人に伝える力をつけること。二つ目は大人は子どもたちの先回りをしないこと。三つ目は大人は子どもたちが自分の個を発揮できる環境を整えてあげることが重要だということを認識してほしいこと。そして最後に四つ目として大人も子どもも自身と周りの成長を待つこと、このことを親にも子どもにもわかってほしいとのことでした。
 今回の金曜サロンスペシャルはゆうこ博士の話がとても興味深く、面白かったので、最後の質問の時間が足りなくなってしまったことがとても残念でした。
 もし、私に質問する機会が許されたのであれば「UFOや宇宙人について」といった低レベルな質問をさせていただいていました。どなたかがこのような質問していただくのを楽しみにしていたのですが、残念ながら、会場にお越しの皆さんはもっと高度な内容の質問に終始され、恥ずかしながら私には質問の内容自体、理解できないものもありました。私のこの質問については、また別の機会に網蔵博士にお尋ねしてみたいと思います。
 私たち市民活動サポートセンターいなぎは、ゆうこ博士がこれから稲城市で展開しようとしている活動について注目していくとともに、新たなる市民活動が活性化していくためのイベントの企画等についてもぜひ一緒にアイデアを出し合っていただきたいと考えております。(Y.OGAWA)

 <ゆうこ博士の年譜>
1984年 岡山県に生まれる、その後京都に移住
2004年 京都教育大学付属京都高校 卒業
2008年 富山大学理学部生物学科 卒業 学士(理学)
研究テーマ 加重力環境下での植物の生殖成長への影響
2008年 東京薬科大学生命科学研究科(東京都八王子市)に進学 
国際宇宙ステーションの宇宙実験に関わり始める
2010年 東京薬科大学生命科学研究科 卒業 修士号(生命科学)
2013年 東京薬科大学生命科学研究科生命科学専攻
博士号(生命科学)取得
研究テーマ 宇宙環境における微生物の生存能力評価
2014~2015年 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙科学研究所
超高速衝突実験室、宇宙実験に関わる
2016~2018年 東京薬科大学生命科学部 極限環境微生物学研究室 嘱託助教
国際宇宙ステーションの実験の遂行、解析
2018年 工学院大学 非常勤講師
2018~2019年 千葉工業大学惑星探査研究センター(PERC)研究員
大気球を用いた成層圏大気中の微生物分析
2019〜現在 千葉工業大学惑星探査研究センター(PERC)非常勤研究員
2019年〜2021年 渡米 New Haven, Connecticut, USA
2020年 「ゆうこ先生のわくわく科学教室」を現地、オンラインにてスタート
2021年7月 屋号「ゆうこ博士のわくわく科学教室」で個人事業として科学教室を稲城市で始める
現在は、東長沼くらすクラスを中心に子供向けの科学教室を行なっている。

社会貢献
2010年〜2019年 日本宇宙少年団未来MM分団ボランティアリーダー
2020年 Yale Peabody Museum of Natural History (自然史博物館) (New Haven, CT, USA), 解説員のボランティア